日テレ笹崎里菜さんの裁判の結果は勝訴?内定取消が許される場合とその効果は?

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SHIHO先生: 年末で相談者もいないですし、今日は時事問題から
労働法をのぞいてみましょう。テーマは、
「内定取消はどんなときに許されるか?」です。

法くん: もしや、日テレの女子アナの内定取り消しの件ですね。
裁判の結果が楽しみです。和解になる気配もありますが・・

SHIHO先生:和解に落ち着くとしても、その前提として内定取消
について法的に解釈しておく必要はあるはずですね。
そもそも、「採用内定」とは何でしょうか?


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律さん: 大学などを卒業したら、労働契約を締結するという、
単なる予約に過ぎないという説もあります。
もっとも、判例は、企業が内定を出したら、それは
すでに、試用労働契約になると解釈しています。

法くん: 企業には、採用の自由があるわけだけど、
内定が契約なんだったら、内定の取消は簡単にはできない
様な気がするなぁ。

律さん: 契約と考えても、内定者が、
内定通知書などにかかれた条件に違反する事態になった
場合は解約できるはずよ。
たとえば、単位を落として卒業できなかった場合とか・・

SHIHO先生: そうですね。内定時に、解約権を企業が
留保する契約と言われます。(最判昭和54・7・20など)
内定の取り消し事由が通知書などに書かれていない場合でも、
社会通念上相当な事由があれば、内定取消できる場合が
あるともされています。

律さん: 今回も、まさに内定取消が問題になっていますが、
具体的には、過去のアルバイト歴を、笹崎さんが、日テレに
提出したシートに書かなかったことが、経歴詐称にあたると
言われています。

法くん: まずは、そのシートが、採用内定の条件を
構成するのかが問題になるね。単なる自己紹介カードであれば、
それが採用の材料になっているかどうか、笹崎さんは
知らなかったといえるのではないかな。

SHIHO先生: もし、その問題がクリアされて、経歴詐称にあたると
認定された場合、それを理由に企業は自由に解約できるのでしょうか?

この問題を扱ったのが、日立製作所事件と俗に呼ばれる裁判例です。
内定者が、履歴書に、本籍地を、本当は朝鮮なのに、愛知県と記載した事案ですね。

抜粋すると、

原告が氏名に本名・・・を使用し、本籍につき真実を申告することはとりもなおさず原告が在日朝鮮人であることを公示することになるのであるから、原告が被告会社に就職したい一心から、自己が在日朝鮮人であることを秘匿して、日本人らしく見せるために氏名に通用名を記載し、本籍に出生地を記載して申告したとしても、前記のように、原告を含む在日朝鮮人が置かれていた状況の歴史的社会的背景、特に、我が国の大企業が特殊の例外を除き、在日朝鮮人を朝鮮人であるというだけの理由で、これが採用を拒みつづけているという現実や、原告の生活環境等から考慮すると、原告が右詐称等に至つた動機には極めて同情すべき点が多い。
 一般に、私企業者には契約締結の自由があるから、立法、行政による措置や民法九〇条の解釈による制約がない限り労働者の国籍によつてその採用を拒否することも、必ずしも違法とはいえないのである。しかし、被告は表面上、又本件訴訟における主張としても、原告が在日朝鮮人であることを採用拒否の理由としていない(しかし、被告の真意は後記認定のとおりである。)ほどであるから、原告が前記のように「氏名」、「本籍」を詐称したとしても(その結果、被告会社は原告が在日朝鮮人であることを知ることができなかつたとしても)、これをもつて被告会社の企業内に留めておくことができないほどの不信義性があり、とすることはできないものといわなければならない。

と述べ、内定取消は許されないとし、雇用関係の存在を認め、
企業側に慰謝料の支払も命じました。

法くん:SEさんのような職種だったとのことですから、
在日朝鮮人でも日本人でも、パフォーマンスに全く影響しないはずです。
そもそも、人種差別ですもんね。

SHIHO先生:企業側は、あくまで虚偽記載が問題であり、
人種を問題にしたわけではないと主張しましたが、裁判所には認められませんでした。

本件に置き換えると、笹崎さんの経歴詐称(仮にそうだとして)が、
従業員としての不信義性を示すものか否かという問題というわけです。

律さん: 仮に笹崎さんが、ホステスとしてのバイト歴を意図的に
書かなかったとしても、それがアナウンサーとしての仕事に
ふさわしくないとは思えないわ。
したがって、日本テレビの従業員として不信義とは言えないと思います。

法くん:そうだとすると、笹崎さんは日テレに入社する権利がある、
というわけだね。